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研究概要

正多角柱環状分子"ピラー[n]アレーン"の開発

 正多角柱は優れた対称性の美しい構造体です。我々は、正5,6角柱の新規環状分子(柱(ピラー)状構造であり芳香環(アレーン)からできているため、“ピラー[n]アレーン(nは繰り返し数))”と名付け、2008年に報告しました。世界中の化学者に利用され、11年間でピラー[n]アレーンを用いた600報を超える論文が報告されています。一般的に環状ホスト分子の合成は、収率が低い・反応手順が煩雑・精製が困難といった問題点があります。一方私たちが合成したピラー[n]アレーンは、安価に販売されている原料を混合し、短時間(3分)、簡便な手法(再結晶)で70%以上の高収率で得られるため、誰にでも簡単に合成が可能です。この簡便な合成法に基づき、2014年には試薬として販売されました。これまでは同様の原料を反応させると、斜めでベンゼン環が連結した杯状の形状を有したカリックス[n]アレーン(“カリックス”は杯状の意、“アレーン”はベンゼン環の意)が得られる場合がほとんどでした。一方私たちが合成した環状ホスト分子は、真横でベンゼン環が連結していることから、カリックス[n]アレーンのように杯状“カリックス”ではなく、柱状“ピラー”でした。柱型ホスト分子は前例が無く、私たちはこの分子を新たに「ピラー[n]アレーン」と名付けました。ホストーゲスト特性の解明、超分子ポリマー、インターロック分子、キラリティーの解明、官能基団を位置選択的に導入する方法、集積化など多岐にわたる研究を進めています。

正多角柱環状分子ピラー[n]アレーンを基にした空間化学

分子を並べる

 私たちは、ピラー[n]アレーンの優れた対称性を利用し、1、2及び3次元にピラー[n]アレーンを並べることで分子空間を有した材料を造り出しました。正多角柱分子は、柱構造から1次元チャンネル構造を形成することができます。さらに2次元に正6角柱分子を敷き詰めると、蜂の巣構造である2次元ハニカムシート構造を形成することができました。一方で、正5角柱分子を敷き詰めても、正6角柱分子のような2次元シート構造を作ることは困難です。また正6角柱分子のみでは3次元の球状構造を形成することはできませんが、あえて対称性の低い正5角柱分子を組み込むことにより、3次元の球状構造を形成することができました。フラーレンが正5角形と正6角形から球状構造になるのと同様の原理です。

分子を分ける

 各種の分離精製法や分子認識の技術が発展した現在も、アルカン異性体の分離はなお難しい課題です。蒸留などの技術では分離が困難なのはもちろんですが、アルカンは他の分子との相互作用が弱いため、これを精度よく分離する方法はほとんど知られていません。しかしアルカンの分離には大きなニーズがあります。例えばイソオクタンのような枝分かれの多いアルカン含有の高いガソリンは、エンジンのノッキングの少ない、いわゆるハイオクガソリンとなることが知られています。我々は正6角柱ピラー[6]アレーンからなる空間材料は、その空間に分岐状アルカンを選択的に取り込みことを見出しました。この特徴を利用し、ピラー[6]アレーンからなる空間材料を直鎖と分岐アルカン混合物に作用させると、空間材料は分岐アルカンを選択的に取り込み、結果として大幅にガソリンの品質を向上させることに成功しました。容易にガソリンを高品質化することができ、エネルギー・環境問題解決への貢献が期待されます。様々な分子量を有する高分子から高分子量体を選択的に分離することにも成功しています。

分子を検知する

 ピラー[n]アレーンの優れたアルカン形状認識能と分子構造をデザインすることで、アルカンガスの形状を色変化で検知することができました。直鎖・分岐・環状など様々な形状の混合アルカンガスの中に、どのような形のアルカンガスが存在しているかを色変化により検知することができ、ガソリンの純度を見分けるセンサーとしての応用展開が期待されます。