研究室の歴史

受容体活性化Ca2+チャネルの分子解析と生理機能の同定(1995-現在)

細胞増殖と分化、或いは生存と死を制御する形質膜越えのCa2+流入、を担うCa2+チャネルの分子的実体は長い間、謎とされてきた。そこで、イノシトールリン脂質等の代謝回転に連関した、増殖・分化因子やホルモン受容体の刺激により活性化される、受容体活性化Ca2+チャネルの分子解析と生理機能同定を行った。受容体活性化Ca2+チャネルの分子的実体と考えられる、ショウジョウバエ視細胞TRPタンパク質の7つの動物ホモログ(TRPC1-7)を単離した。TRPC1-7はそれぞれ特徴的な組織分布を示すが、細胞内Ca2+ストアの枯渇に活性化が連動した容量性Ca2+チャネル、及びストアの枯渇に連動せず、細胞内外の、ジアシルグリセロール等のユニークな機構により制御される、Ca2+透過型カチオンチャネルに分類されることを明らかにした。特にTRPC6は、平滑筋収縮の交感神経系調節を担う、α1-アドレナリン受容体刺激により活性化されるカチオンチャネルであることを示した。最近、TRP1-7とは遠種のホモログTRPM2が、活性酸素種によりニコチンアミドを介して活性化され、細胞死を仲介する新規カチオンチャネルであることを発見した。 以上の業績に基づいて、TRPチャネル遺伝子命名法の統一に参加した。

電位依存性カルシウムチャネルの構造決定および機能解析(1988-現在)

神経・筋肉系等の興奮性組織において電位依存性Ca2+チャネルは、活動電位の発生のみならず、活動電位Ca2+をシグナルへ変換するという中心的役割を担っている。一方、中枢神経細胞は機能、形態的に非常に多様であり、電位依存性Ca2+チャネルの機能、細胞内局在性も多様である。Ca2+チャネルの生物学的多様性を支配する普遍的な規則の解明ために、チャネルの分子実体及び生理的機能を明らかにし、細胞上での極性分布制御機構を探究してきた。
世界に先駆け、脳神経系において神経伝達物質放出等、諸神経機能を司る3つの型のCa2+チャネル(N、P/Q、R型)遺伝子、α1A、α1B、α1Eを発見した。1991年には、それらのうちの一つα1Aが、小脳プルキンエ細胞のCa2+電流を担うP型Ca2+チャネルであることをつきとめた。次いで、その存在の有無が論争の中心となっていた、持続性N型チャネルもα1Bが担うことを示すと同時に、神経細胞標本を用いた機能測定による既存分類とは異なる、新規の高閾値Ca2+チャネルR型も見い出した。また、Ca2+選択フィルターを形成する4つのグルタミン酸残基を含むチャネルポア(pore)形成「P」領域、臨床薬理学的にも重要なCa2+拮抗薬の結合部位等、Ca2+チャネル機能に枢要の構造因子を同定した。さらには、副サブユニットや、神経細胞にシナプス前抑制を惹起するGTP結合蛋白質等、との相互作用機序を明らかにすることにより、Ca2+チャネルが生理学的機能を発現する場の分子構築を解明するてがかりをつくった。特に、副サブユニットによる小胞体から形質膜への輸送機序を解明した。
P型遺伝子に変異を有する、脊髄小脳変性症SCA6や家族性偏頭痛等のヒト遺伝性疾患、及びtottering、leaner及び rolling-Nagoya 等の行動異常マウスにおいて、変異に起因するP型Ca2+チャネル機能異常や、より高次の生理機能異常の発症機序の解明にも携わった。特に、rolling-Nagoya 変異が膜電位センサーの異常を引き起こし、小脳プルキンエ細胞での活性電位を損なうことを示した。また、tottering同様、運動失調・欠神発作を発症するstargazer遺伝子が副サブユニットγ2の神経型isoform γ2をコードすることも見い出した。最近、N型チャネル遺伝子α1Bのノックアウトマウス作製に成功し、N型チャネルが平滑筋収縮、血圧の交感神経性調節において、支配的役割を果たすことを明らかにした。
以上の業績に基づいて、2度にわたるCa2+チャネル遺伝子命名法の統一に参加した。

ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の構造機能相関(1985-1988年)

神経細胞の基本的な機能を制御するイオンチャネルの分子的実体をつきとめ、特定のイオンチャネルの定義となるような機能的性質の構造的基盤を明らかにした。まず、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の構造機能相関を明らかにする研究に参加した。組み換え的に発現させたnAChR人工変異体が発生する単一チャネル電流を解析し、イオン透過性に対する変異の効果の検討により、チャネルポア(pore)形成部位を第2膜貫通領域、及びその近傍の細胞外領域に決定した。

有機電極反応の開発(1982-1985年)

電極還元反応を用いた所謂、「環境にやさしい」天然物有機化合物合成法の開発を行った。本法は種々テルペン、アルカロイドの合成に応用が可能である。