ピラー[n]アレーン:合成・機能化・面性キラリティー
多角柱は対称性に優れた美しい構造です。2008 年、私たちは多角柱状の大環状ホスト分子を開発し、その多角柱構造に基づき、このタイプのパラシクロファンを「ピラー[n]アレーン」と名付けました。発見後、ピラー[n]アレーンを使用した多数の論文が発表されています (>1700報)。これよりピラー[n]アレーンは超分子化学における1つの重要な大環状ホスト分子となっています。
合成と構造
ピラー[n]アレーン(n = 5、6)は、環化反応に使用する溶媒に応じて選択的に合成できます。ピラー[5]アレーンは、1,2-ジクロロエタンを溶媒として使用すると高収率で合成できます。一方ピラー[6]アレーンは、クロロシクロヘキサンを溶媒として使用すると高収率で合成できます。どちらの場合も、溶媒がテンプレートとして機能し、特定のサイズのピラー[n]アレーンを高収率で生成できます。ピラー[n]アレーンの合成に使用される試薬は安価に市販されており、生成物は簡単な再結晶を使用して簡単に単離できます。これより10個のメトキシ基を持つピラー[5]アレーンは、東京化成工業(TCI)によって2014年から販売されています。
ピラー[n]アレーンの化学構造に関する最も重要な点は、メチレン架橋の位置です。ピラー[n]アレーンは、1,4-ジアルコキシベンゼンユニットで構成され、2位と5位がメチレン架橋で結合しています。一方カリックス[n]アレーンでは、フェノールユニットが2位と6位でメチレン架橋で結合しています。メチレン架橋の位置が異なるため、カリックス[n]アレーンは、両端が開いた非対称のカリックス型構造となり、それによりカリックス[n]アレーンと名付けられています。対照的に、ピラー[n]アレーンは完全に対称な円筒形構造です。対称性の高さに基づいて、このタイプのパラシクロファンを「ピラー[n]アレーン」と名付けました。
機能化
ピラー[n]アレーンの両縁のアルコキシ基は、BBr3を用いて脱保護することで、反応性の高いフェノール基に変換できます。BBr3の量を調整することで、一置換および全置換ピラー[n]アレーンを得ることができます。同じユニットに2つのフェノール基を持つピラー[n]アレーンは、1つのジアルコキシベンゼンユニットの酸化/還元によって合成可能です。これらフェノール基の高い反応性を利用することで、様々な官能基を持つ機能性ピラー[n]アレーンを生成できます。最近では、Fridel-craftsアシル化によってブリッジの官能基化が可能になりました。
面性キラリティー
ピラー[n]アレーンは、両縁のアルコキシ基の位置に依存した面性不斉を有します。ほとんどの場合、ベンゼンユニットの回転によりラセミ化が進行します。しかし、両縁にかさ高い基を導入することでベンゼン環の回転が抑制され、キラルカラムによりpS/pRエナンチオマーを単離することができました。最近の研究では、面性不斉アミンピラー[5]アレーンと片面に安息香酸部位を導入したラセミ体のピラー[5]アレーンを共集合させることで、面性不斉が伝搬しキラルな分子チューブを得ることができました。両縁に不斉炭素を有する面性不斉ピラー[5]アレーンを軸分子と共結晶化し、無溶媒条件下でのエンドキャップ反応により、ジアステレオ選択的なキラルロタキサンの調製に成功しました。さらに2つのピラー[5]アレーンの結合、又はピラー[5]アレーンと平面分子コラニュレンを動的共有結合で連結することにより、共有結合性有機ナノチューブを得ることができました。両縁に5つの不斉炭素と臭素原子を含むピラー[5]アレーンでは、n-アルカンの長さにキラル特性が応答するシステムを構築しています。