論文紹介アーカイブ

2007年

Maruyama, Y. et al. J. Biol. Chem. (2007). 282, 36961-36970

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TRPM2はさまざまなシグナルによって活性化されるレドックス感受性のカルシウム透過型カチオンチャネルであり、adenosine diphosphate ribose (ADPR) やcyclic ADPRが作用するADPR pyrophosphatase (ADPRase)ドメインを有している。我々はFLAGタグを付加した四量体TRPM2チャネルを精製し、電子顕微鏡を用いた負染色法により解析し、2.8-nmの解像度で三次元構造を再構築することに成功した。興味深いことに、多様なセンサー分子であるTRPM2は18 nmの幅と25 nmの高さをもつベルのような形をしていた。全体構造は異なるファミリーに属するTRPC3と類似していた。すなわちTRPM2、TRPC3ともに、小さな細胞外ドメインは、密度の高いドーム状の構造をしており、大きな細胞質ドメインは密度が低く、内部に複数の空洞を有する二層構造であった。しかし、TRPM2の細胞質ドメインにのみ、独自の正四角柱の突起が観察された。TRPM2のADPRaseドメインのC末端に融合させたFLAGタグの位置をFLAG抗体によって観察すると、この正四角柱の突起に隣接していた。これはアゴニストが結合するADPRaseドメインと膜貫通領域のイオンゲートが分子内で離れて位置することを示唆する。本研究は世界で初めてTRPMファミリーの閉状態の構造を明らかにした。今後は、クライオ電顕を用いた単粒子解析によるより解像度の高い構造解析が望まれる。

Yamamoto, S. et al. Biochim. Biophys. Acta. (2007) 1772, 958-967

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Alzheimr’s desease が引き起こされる一つの機構として神経細胞の細胞内 Ca2+ の過剰上昇による細胞死が知られている。また神経細胞には Ca2+ チャネルである transient receptor potential (TRP) チャネルが発現している。Alzheimer’s desease 時、様々な神経障害因子が産生され、これらの因子は TRP チャネルの活性化を引き起こすことが明らかにされている。この review では Alzheimr’s desease 発症の一つの分子機構として神経障害因子と TRP チャネルに着目し、細胞内 Ca2+ の過剰上昇による細胞死を関連させ、その可能性を提示している。

Miki, T. et al. Channels (2007). 1, 144-147

近年、遺伝性網膜変性疾患の1つである桿体・錐体ジストロフィーの原因遺伝子として、RIM1変異が報告された。この患者は視覚異常だけでなく認知能力にも異常をきたすが、その疾患メカニズムは全くの未解明であった。以前、我々は電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)とRIM1との結合が、VDCCのチャネル活性の増大を引き起こし、神経に必須な活動である神経伝達物質放出において重要な役割を担っていることを明らかにした (Kiyonaka S et al. 2007 Nat. Neurosci)。今回、我々は視神経に発現するVDCC(Cav1.4)と中枢神経に発現するVDCC(Cav2.1)のチャネル活性が、変異RIM1の結合によって異常をきたすことを発見した。このVDCCチャネル活性の異常が、RIM1変異桿体・錐体ジストロフィー疾患メカニズムの一因であると考えられた。

Kiyonaka, S, et al. Nature Neurosci. (2007). 10, 691-701

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生物の神経活動維持において不可欠な神経伝達物質の放出は、Ca2+流入がトリガーになって引き起こされる。その際に、神経伝達物質を含むシナプス小胞とCa2+流入を担う電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)の距離が重要であることは認識されていたが、それを制御する分子メカニズムは不明なままであった。今回、我々は、VDCCのβサブユニットがRIM1に結合することで、シナプス小胞をVDCCの近傍に集積させ、VDCCのチャネル活性を大幅に持続させることを見出した。すなわち、長い間謎であった、高効率な神経伝達物質放出の分子メカニズムを明らかにしたことを意味する。

Mio, K. et al. J. Mol. Biol. (2007). 367, 373-383

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世界ではじめてのTRPチャネルの3次元構造解析に関する論文。TRPC3は細胞表層の受容体が活性化された後に形質膜越えのCa2+流入を担うイオンチャネルであるが、クライオ電子顕微鏡観察と単粒子解析法を用いて、TRPC3チャネルの構造を15Åの分解能で明らかにした。得られた構造は、K+チャネルと同様のポア性質を有していながら、非常に大きな細胞内領域を有していた。すなわち、TRPチャネルが単なるイオン流入装置としてではなく、様々なシグナル分子と相互作用するセンサーとして機能するということを、構造的観点から明らかにした。